クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 染めることもなく、肩先につくかつかないかで切りそろえてアレンジもなにもしていない髪。化粧も最低限で今日も、オフホワイトのタートルネックにジーンズとシンプルすぎるコーディネート。

 この会場の女子たちの中でも浮いているような感覚はあった。

 一馬は両手を軽く上げて降参のポーズを取ると、おどけた口調で返してくる。

「売るわけねーじゃん。俺が負けるに決まってる」

「江頭くん、弱いー」

「こいつが強すぎんの。高一のとき、すげー慕われている担任の先生が若くして亡くなったんだけど、そのとき女子ではこいつだけ泣いてなかったし。鉄の女だぞ」

 その話題が出され、私は席を立った。逃げるように店の外に出ると、まだ肌寒さの残る夜に体温が奪われる。

 『鉄の女』『冷たいやつ』『クールっていうか』

 次々と向けられた言葉が頭を過ぎる。そんなことないのに。けれど、そういうイメージならしょうがない。一馬が言う通り『優姫』なんて名前も似合わない。

 背も高くて、可愛くもない。周りだってそう思っている。だから私は……。

 そこで軽く頭を振り、気を取り直して、私は鞄にしまっていた携帯を取り出して時間を確認する。

「門限?」

 突然、声をかけられて口から心臓が飛び出そうになった。慌てて振り向き、大きく目を見張る。

「桐生、くん」

 同じゼミでも、ろくに口を利いたこともなかった彼がすぐうしろにいて、私は変に動揺した。
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