クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「こんなのに手間取るなんて馬鹿だろ」

 ほら。私にはこの口調、この態度。

 いつものソファに座って、私が開いて膝に置いたのは本ではなく、ノートパソコンだった。『社会保障と税の一体改革についてわかりやすくまとめたうえで自分の意見を述べよ』という課題レポートの〆切が週明けに迫っている。

 参考文献を何冊か両脇に無造作に散らばせ、目線を左右にせわしく走らせながら、必死でこなしているところに、うしろからあからさまに見下すような発言が飛んだ。誰か、なんて確認するまでもない。

「幹弥も財政学とってたんだ」

 顔は向けずにキーボードに手を添えながら私は答えた。月曜二限の講義は時間的にも取りやすく、さらには裏にめぼしい講義も開講されていないので、どうしても受講生が集中する。

 幹弥の言い草からすると、彼はもう終わらせているのだろう。ここに本を読みに来ている彼にとっては、キーボードの音はきっと耳につく。

「気が散るなら、下の階で作業するよ」

 手を止めて、私はようやく遠慮がちにうしろを向いた。そこには案の定幹弥がいて、背もたれに腕をかけ、軽く咳をしながらも、こちらをつまらなさそうに見ている。

「優姫が今開いている政府の広報用資料は、このレポートには不向きだ。まだ新聞社が出しているまとめ記事の方がわかりやすい」

 まさかのアドバイスに私は目を白黒させる。そんな私にかまうことなく、彼はソファから立ち上がると、こちら側にやってきて、乱雑に置かれている本をまとめて、私の右側に座った。
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