過保護な御曹司とスイートライフ
「別にチャラついてるだとか不真面目だとか、そういうつもりはないけど、それでも、昨日初めて逢った俺がおまえの初めての相手になるのはおかしいだろ」
真面目な顔で言う姿を見て、ああ真面目な人なんだなと思う。
成宮さんはきちんとした大人の男の人だ。
そんな人を私の都合に巻きこんでしまったことを今さら後悔し、自己嫌悪の波にさらわれる。
――『彩月。ダメだろ? あんなヤツらとつるんでたら彩月のレベルまで下がる。ひとりが寂しいなら俺がいくらでも話し相手になるよ。
仕事? ああ、なにも問題ないよ。彩月のための時間ならどんな努力してでも作るから心配ない。彩月は俺のお嫁さんになるんだから』
渦を巻く海の底、聞こえてくる辰巳さんの声が、まるで私を洗脳するみたいに繰り返される。
怖いくらいの優しい笑みを浮かべる辰巳さんの『彩月のため』という言葉は、まるで呪いみたいに私の足に絡まっていた。
小さな頃から繰り返しかけられていた呪いのせいで、それは鎖のように頑丈になり、身動きがとれない。
沈められた真っ暗な深海で苦しくて息がつまりそうだった。
ピピピ……とアラームが鳴り、びくっと肩が揺れる。
あまりに驚きすぎたからか、成宮さんが目を見開き私を見ていた。
「あ……すみません……。あの、これから人がくるんです。その前に帰ってください」
携帯のアラームを止めながら伝える。
辰巳さんがここに来るまで、あと二十分。それまでに、成宮さんがここにいた形跡を消さなければならない。
昨日、ホテルでシャワーを浴びたとき、香りがつくのを心配してボディーソープは使わなかったけれど……それでも部屋の香りはついてしまっているだろうか。
着替えた方がいいかもしれない。
急に焦りだした私を不思議そうに見ていた成宮さんは、なにか聞きたそうだったけれど、「わかった」と立ちあがってくれたから、玄関まで送り出しながら謝る。