過保護な御曹司とスイートライフ
「昨日のことは本当にすみませんでした。もちろん、責任とれなんて言いませんし、今後も会いたいなんて言わないので。そんなこと、許されませんし」
靴を履いたところで成宮さんがピタッと止まる。
そして振り向き「許されないって、誰に?」と首を傾げるから、目を逸らした。
口が滑ったことを、しまった……と内心思いながら笑顔を作る。
「私、目が悪いんです。だからいつもはコンタクトをしているんですけど、昨日はわざと外して外出してました。もちろん、今もしてません」
突然変わった話題に、成宮さんが不思議そうに目元をしかめているのがわかった。
「今も、成宮さんの顔、ぼんやりとしか見えてません。だからきっと、この先どこかですれ違ったとしても、私は成宮さんに気付かない」
「どこかですれ違ってもって……」
「私のお願いを聞いてくれて、ありがとうございました。……お引き取り下さい」
辰巳さんが来るまで、あと十五分ちょっと。
ふたり分のカップを洗って、部屋の空気も入れ換えないと……。
そう頭の中で巡らせていると、成宮さんは私の顔をじっと見つめたあと「どういたしまして」と言い、私の頭を抱き寄せる。
「え……」
逞しい胸に優しく抱かれたと思った次の瞬間には、屈んだ成宮さんにキスされていた。
優しく触れるだけのキスをした成宮さんは私の頭を柔らかく撫で、それから「じゃあな」と笑顔を残し部屋を出た。
パタン……と静かな音を立ててしまったドアを、パチパチと瞬きを繰り返しながら見つめる。
驚く間もドキドキする隙もなく流れるように行われた一連の行動に、頭がついていけずに呆然としてしまっていた。