過保護な御曹司とスイートライフ


『婚約者が来るのは水曜と土曜だよな?』
『はい。それ以外は、たまに電話があるくらいです』
『じゃあ、今日、作戦決行な。二十時までに荷物まとめておけるか? 最低限でいい』

うなづいた私に、成宮さんは目を細めて。

『二十時に迎えにくる』

そう告げた。


私が勤める会社は大手飲料メーカーの本部。八階建ての建物の一階で受付として働いて四年目になる。

地方にいくつもある工場では容器や飲料を製造しているけれど、本部にはそういった施設はなく、普通のオフィスとそう変わらない。

新商品のアイデアを練り会議にかけたり、商品開発が決定すれば、その原材料の候補を出し、ひとつひとつの安全性を確認するために研究所に依頼を出したり。

お客様から寄せられた品質トラブルの原因解析に務めたり、どうすれば現場がよりよく改善されるかなど、毎日のように行われている会議の内容は尽きることがない。

受付の仕事は総合受付だけではなく、会議室や応接室へのお茶出しや片付けがあり、他にも役職についている人からの頼まれごとをこなしたりと、結構バタバタしている。

もちろん、電話対応も受付の仕事のひとつだ。

表情筋の乏しい私には、最初は愛想笑いが難しくて毎日がツラかったけれど、半年ほどが経ったころからやりがいみたいなものを感じるようになった。

来訪される方をきちんと接客、案内できると自信になるし、お茶出しや片付けにしても、この方はコーヒーじゃなくて緑茶だとか、細かいことが覚えられてきていて嬉しい。

仕事に慣れるにつれて、笑顔も自然と出るようになった……と思う。

二年先輩である矢田さんには、まだまだ不自然だと笑われてしまうけれど。

「ただいまー」

会議室の片付けから戻ってきた矢田さんが、明るい声を出しながら隣の椅子を引く。



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