過保護な御曹司とスイートライフ
受付を任せられているのは、矢田さんと私だけだ。
というのも、来訪してくるのは取引先企業がほとんどだし、一日に多くても三十人やそこらだ。その人数を案内するのには、ふたりもいれば十分だ。
会議室や応接室のお茶出しや片付けだって、一日に十回くらいだし、それもふたりでこなせる。
けれど、それがたまたま重なってしまうと、少しだけ困ってしまう。
たとえばさっきみたいに、矢田さんが片付で席を外している間に来訪があったりすると、案内を誰か他の部署の人にお願いせざるをえない。
受付が無人になってしまうとマズいから。
まぁ、来訪もお茶出しも片付けも、そう多くはないし……と思うのだけど、タイミングが見事に重なってしまうのが謎だ。
矢田さんは、あまりに重なり続けるこのタイミングの悪さに『この受付近辺には魔物がいると思うのよね。ほら、甲子園にもいるっていうアレが!』っていつか言っていたけれど、そろそろそういった存在も信じたくなるほどだった。
「でも、案内頼んでも、今日は営業の方はにこやかでしたよ」
たまに〝なんのための受付だよ〟みたいなことをボソッと言われてしまい、そこに矢田さんが怒り心頭しているのは知っているから言うと、矢田さんは「それが当たり前でしょー」と口を尖らせる。
「こっちだって仕事で席外してるのに、仕事してないみたいな目で見られるのって本当に頭くる。役員から内線ですぐ片付けてくれって言われたら行くしかないじゃないね」
「ですよね」
色んな部署にはそれぞれ事情があるから、嫌味を言われてしまうのも仕方ないのかなぁと思いながら、パソコンで会議室の予約状況の確認をしていると、矢田さんが肩を寄せてくる。