過保護な御曹司とスイートライフ
「そんなことより、さっき副社長が出先から帰ってきたんだけど、やっぱりいいよねー、副社長。私なんかに対しても全然威張った態度じゃないんだもん。営業部の方が全然偉そうってどうなってるんだろー」
「ああ……先週、ここに配属になったんですよね。たしか。私、まだ見かけたことなくて」
「あ、そっか。鈴村さん、先週、研修でいなかったもんね」
パソコンで確認すると、第一会議室に十四時から予約が入っている。
誰が使ってるんだろう……と詳細を見るためにクリックして、予約者の名前に〝あれ?〟と目を留めた。
〝成宮彰人〟ってなっているけど……まぁ、そこまで珍しい名字じゃないしと、画面を閉じる。パソコンの右下にあるデジタル時計は一四時一八分を示していた。
「社報で写真を見た気はするんですけど、どんな方ですか?」
ロビーをぐるっと見渡し、片付けなどが必要な場所がないことを確認してから、矢田さんに視線を向ける。
黒髪ロングの髪を、右耳の下でひとつに結んでいる矢田さんはとても美人だと思う。
少しつり目のせいで怖く見られがちだって本人は嘆いているけれど、ぴしっとして整った顔立ちは周りの目を引くほどで、アジアンビューティーって言葉がよく似合う。
「成宮副社長はね、こう、全然エリートな感じがしないっていうか……言い方が難しいけど、偉そうじゃないのに頼りがいがある感じ」
「へぇ……社長のご子息なんですよね?」
「そうよー。離婚した奥さん側の性を名乗ってるから、社長とは名字違うけど。入社してから六年近く支部や工場で現場を経験して、先週からは、社長見習いみたいな感じで働いているみたい。じょじょに社長の仕事を覚えさせていって引き継ぐのかもね」
「そうなんですね。離婚……」
社長が離婚したのは、たしか矢田さんが入社した年だって言ってたから、六年前ってことになる。
ってことは、副社長が入社した年に離婚したのか……と考えていると、矢田さんがうんざりしたような声を出す。