過保護な御曹司とスイートライフ
「そりゃあ、これだけの大企業のトップってなれば、色々あるわよね。プレッシャーだって相当だろうし、プライベートな時間なんて社員以上にとれていないと思わない? 家庭内だっておかしくなっても当然よね」
そこまで言った矢田さんがグリンと勢いよくこっちを向き、さっきまでの暗い表情を一転させ「ところが!」と、キラキラした笑顔を浮かべる。
「そんな環境で育ちながらも、副社長があんないい感じってすごくない?」
「いい感じ……ですか?」
具体的なことがわからずに首を傾げると、「そう!」と力強くうなづかれる。
「だってよく考えてもみてよ。あんな立場なら絶対に裏のドロドロした部分見て育ってきたわけでしょう? 両親だっていくら円満離婚だとしてもまったく揉めなかったわけでもないだろうし。もしかしたら、副社長が小さな頃から冷戦状態だったかもしれないじゃない?
なのに、普通あそこまで純粋な笑顔浮かべられないって」
「ああ、そういう……なるほど」
「私たちみたいな一社員にもあんな笑顔振りまいてくれるとか……もう、なんだろう、天使的な? 見られるだけで幸せだと思ったし、ここに巣食ってる魔物も退治してくれそうだったんだから」
……どうせならきちんと退治してくれればよかったのに。
天使だの魔物だのと言う言葉を用いながら、うっとりした様子で説明してくれる矢田さんを見る限り、副社長は相当笑顔の素敵な人なんだろうなぁと考える。
矢田さんの、少しおおげさに表現するクセをのぞいたとしても、この騒ぎ用だとかなりだ。
そういえば、社長もとても優しい笑顔を浮かべる人だから、そういう部分は社長に似たのかもなぁと考えていると、内線が鳴る。
「私でます」と矢田さんに一言かけてから受話器を耳に当てた。