過保護な御曹司とスイートライフ
「失礼します。お部屋の片づけに……」
第一会議室は、五つある会議室の中でも一番広く、並んでいる長テーブルは十台以上。
テーブルは会議の内容によって、コの字になったり、教室のように並べられたりと色々だけど、今日はコの字として使われていた。
南向きの窓から入り込む光はブラインドで調整されていても眩しいほどで、思わず目を細める。
ものの数秒で慣れた瞳が、室内にいるある人物を捕えた瞬間、言葉をなくした。
コの字に並んだテーブルの端に軽く腰掛けているその人には見覚えがあった。さっき、予約者の名前をパソコンで確認したときにも、一瞬頭をよぎったけれど……まさか。嘘でしょ。
この会社の副社長だという〝成宮彰人〟が、私を冒険に誘ってくれた成宮さんと同一人物だとはすぐに結びつかずに、困惑する。
だって……失礼だけど、正直、柄じゃない。似合っていない。っていうか、警察じゃなかったの……?
グルグルグルグル、頭の中はフル回転だった。
……でも。
『成宮副社長はね、こう、全然エリートな感じがしないっていうか……言い方が難しいけど、偉そうじゃないのに頼りがいがある感じ』
『私たちみたいな一社員にもあんな笑顔振りまいてくれるとか……もう、なんだろう、天使的な? 見られるだけで幸せだと思ったし、ここに巣食ってる魔物も退治してくれそうだったんだから』
矢田さんがキラキラしながら言っていたことを思い出し、この事実をやっと、なるほど……と呑み込む。
ブラインド越しの日差しを背に受けた成宮さんは、呆然としている私を見て「驚いたか?」といたずらっ子のように笑うから、私もようやく時間を取り戻し、会議室に入りドアを閉めた。