過保護な御曹司とスイートライフ


「驚きましたし、今もまだ驚いてます」

満足そうな笑みを浮かべる成宮さんを眺めてから、片付けに入る。
テーブルには自社の缶コーヒーがずらりと並んでいた。片付けように持ってきたトレーに空き缶をのせ、テーブルを拭いていく。

手は止めずに「副社長だったんですね」と話しかけると「んー……まぁ、その呼び方はおおげさすぎるけど、一応な」と複雑そうな声が返ってきた。

でも……そうか。だから運転手さんつきの車に乗っていて、あんなホテルにも泊まってたのかと納得する。
それからすぐに、しまった……と抱えきれないほどの後悔に襲われる。

だって、副社長を逆ナンしちゃうなんてありえない……。

自分の犯したミスに気付いた途端、さーっと血の気が引いていくようだった。
慌てて顔を上げると、ずっとこっちを見ていたのか成宮さんとすぐに視線がぶつかった。

「あの、先週、私、研修施設行ってたので、成宮副社長のお顔を知らなくて……金曜から今まで、大変失礼しました」

かなりの緊張を覚えながら頭を深々と下げると、成宮さんはすぐに「いや、謝る必要なんかないって」と軽いトーンで言ってくれたけれど、テーブルを目の前にしたまま首を振る。

一社員が副社長を誘うなんて……その上、直接お礼も告げずに部屋を抜け出した上、部屋代も払わせたなんて……。

やらかしてしまった失態の数々が頭のなかをグルグル回る。
どうしよう、と焦りばかりが先行して、まともに考えられなくなってしまう。

「いえ、とても無礼な行いをしてしまいましたし……あの、本当に申し訳ありませんでし――」
「それに俺は知ってたしな。金曜日の夜、受付の鈴村だって気付いてて声掛けたんだし」

ガバッとテーブルを間近に見つめている姿勢のまま、「……え?」と声が漏れる。

知ってたって……なんで? 副社長がこの本社に配属されたのは先週で、私は顔を合わせていないハズだ。
それに、会っていたところで一社員の私なんて記憶にあるとも思えない。

疑問だらけで、でも〝なんで?〟なんて聞いていいものかもわからず黙っていると、成宮さんは私が呑み込んだ疑問が聞こえたみたいなタイミングで答える。



< 39 / 154 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop