過保護な御曹司とスイートライフ


人通りのない、しん、としたフロアに成宮さんの声だけが聞こえていた。

矢田さんの前でなんて話題を持ち出すんだ……と思うももう遅い。
チラッと視線を向けると、成宮さんの発言を聞いて驚きを顔いっぱいに浮かべている矢田さんがいて……ばっちり聞かれてたことがわかり誤魔化すことを諦める。

それに、成宮さんって私が誤魔化したところで、そういった意図を汲み取ってはくれなそうだし。

なにも気付かず『だから、夕飯だよ。今日、なにかって聞いてるんだろ』とか言ってきそうだ。

「……シチューにしようと思ってますけど。白いやつ」

ぼそぼそと答えると、成宮さんはぱぁっと顔を明るくし「ああ、俺が失敗したやつな」と笑う。

「じゃあ、うまいパン買って帰るな」
「……はい」

そろそろと目を逸らしながら小さな声でうなづいていると、矢田さんが「あの……」と声を出す。
見れば、顔の横の高さで挙手している矢田さんが成宮さんと私を見ていた。

「あの……副社長。失礼ですが、今の会話から推測するとふたりが一緒に住んでいるように思えてしまうんですが……」

当然の推理だった。
夕飯のメニューの相談なんて、一緒に暮らしていなければまずしない。

それでも矢田さんが半信半疑だったのは、成宮さんが副社長という立場だからだろう。
誰だって、副社長と私が同居生活しているなんて思わない。

それにしても……なんて答えよう。と考えを巡らせていると、成宮さんが口を開く。

「住んでるけど」

ほとんど即答だった。
バッと勢いよく成宮さんを見たけれど、キョトンとしていたから、はなから隠そうとは思っていなかったんだろう。

だから夕飯のメニューだって聞いてきたわけだし。


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