いちばん、すきなひと。
自分に素直になるということー野々村目線6ー
あの日ーーーーー
彼女は一段と綺麗になって
俺の前に現れた。

だけどやっぱり、話すと全然変わっていない
不思議な気分だ。

まるで、あの頃に戻ったような

だけど
俺たちの時間は止まったままで
今更何をするわけでもなく
ただ、当たり障りのない会話をするだけだった。

俺はまた、同じことを繰り返すのだろうか。

思い出にしようとしたのに、彼女との記憶は色褪せることなく
ますます鮮やかになるばかりで、苦しかった。
忘れようとしたのに、無理だった。

彼女はもう歩き出しているだろう。
俺との事なんてサッパリいい思い出になってるだろう。

だけど
俺が、ダメなんだ。

あの時選んだ道を、後悔した。
彼女のため、みやのっちのためだと言い訳をして
自分の心に嘘をついたんだ。

いつも、勉強やスポーツに関してはともかく
ただ、一人の男として好きな女の隣に並ぶ、自信がなかった。
本音を見せないアイツに、頼ってもらえるような男になりたかった。

だからーーーアイツが頼ってこないから
俺ではダメなんだ、と思っていた。

違う。

もっと素直に言えば良かったんだ。
大きなお世話でもなんでもいい。
好きだから助けてやるって
俺が、もっと素直に言えば良かったんだ。

松田が「思わせぶり」だと罵った意味がようやく理解できた。
理由も言わず「頼れ」と言ったところで、本心なんて伝わるはずがない。

ましてや彼女の優しい性格だったら尚更だ、
アイツもきっと、周りを気にして
ずっとーーー隠していたんだ。

もっと早く気づいていれば
いや、もっと早くーーー

俺が、素直になれば良かった。


だから今度は
今度こそは
俺が、したいようにする。

結果、散ることになっても
その時はきっと、新しい一歩を踏み出せるはず。
そんな気がした。

だから、彼女に声をかけた。
その後も少し強引に連絡も取った。

少し会って話せば、お互いの取り戻せない時間に気づいて
諦めもつくかもしれない。

なのに
彼女は全く何も変わらず。
それどころか
ますます肩の力が抜けて、魅力的になっているではないか。

楽しそうに学校の話をしてくれる。
映画の感想を言い合う時間。
やっぱり、居心地が良かった。

彼女はもう、俺なんかに頼らなくても
しっかり前を向いて歩いている。
ーーーそこに、一緒に並びたい。
素直な気持ちだった。

もっと、遠い存在に感じるかと思っていたのに
ますます近くに感じるとは。
どうやって、この糸を手繰り寄せれば良いのか
必死に考えた。

だけど結局。
彼女がチョコを差し出した時の表情を見てノックアウトだ。
期待なんて生易しいもんじゃない
これはーーー

その後、どう思いを伝えれば良いのかとあれこれ頭をフル回転させたが
結局、いざその時になると何もできなくて。

少しずつ、気持ちを伝えるはずだったのに
抑えきれなかった。

彼女の涙を見てしまい、全てが吹き飛んだ。

「……好き、なんだ」

これ以上の言葉が他にあるだろうか。
どんな言葉で飾ろうとしても、これに勝るものは無いと感じた。

一度腕の中に閉じ込めてしまうと、もう離したくなくて
必死で思いを伝えた。
過去の俺、今の俺
全て、伝われーーーーーと。

彼女はただ、声をあげて泣いた。
あの時、辛い思いさせて悪かった。
きっと、あの時もこんな風に
泣いたんだろう。

遅くなって、ごめん。
そんな気持ちを込めて、もう一度。

「ほんと、今更なんだけど……もし、まだ少しでも可能性があるなら」
泣きはらした彼女の目を見て、思いの全てをぶつける。
「俺の隣に、いてほしい」

隣で、一緒に
泣いて、笑って
バカなことやって、美味しいもの食べて
くだらない話をして
そうやってずっと、歩んでいきたい。

もう、無理だと思った。
今更だと思った。

だけど、彼女は溢れる涙すら堪えずに
これまで見たこともないような、美しい笑顔で頷いてくれた。

たくさん辛い思いさせたかもしれない
俺の知らないところでも、たくさん頑張ったんだろう
だけど、もう
ひとりじゃないから。

これからは
俺が、ずっとそばにいるから。



まだ少し寒さの残る夜でも
抱き締めあった体と心は、暖かかった。
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