王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


「おお、待っておったぞ」


ギルバートが傷心のまま部屋に戻ると、国王が待ち構えていた。
その善人そうな顔を見ると胃が痛くなる。尊敬する父親ではあるが、こと結婚に関しては窮地に追い込んだこの父を憎らしい気持ちを隠せずにいた。


「父上」

「そろそろ心が決まったかと思ってな。どうだ。ヴァレリア殿かシャーリーン殿か?」

「俺はどちらも好きではありません。それに、ヴァレリア殿には恋しいお方がいるようだ。俺はその恋路を邪魔する気はありません」

「では、シャーリーン殿を選べばいい。ちょっと気は強い娘だが、あの美しさは希少だし、はきはきしていて……」


流れるように話を進めようとする国王の話を、ギルバートは壁を叩くことで遮った。


「父上。俺には心に決めた人がいるんです」

「なんだと? 誰だ? それは」

「言えません。言えば、父上は無慈悲な対応を彼女にするでしょうから。俺が好きな人は、貴族ではありません。彼女にも、超えられる身分差ではないと言われました。彼女を忘れる努力はするつもりです。だけど、すぐ他の人と結婚なんてことは考えられない。……この話、一度白紙に戻してはいただけませんか」

「勝手なことを言うな。あんなに大々的に宣言したのに」

「勝手に宣言したのは父上でしょう!」


ギルバートからは冷静さが失われていた。頭がかっかとしてちっとも考えがまとまらない。涙まじりのエマの声だけが頭の中でこだましている。

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