王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~

「俺は初めて、一緒にいて心安らぐ女性と出会えたのです。だけど身分違いの恋だからと、彼女には振られました。ええ、仕方ありません。俺はこの国の王太子です。自分のわがままを通すわけにはいかないということくらいわかっていますよ! だけど、今すぐ他の女性となんて考えたくもない。後生です、父上。せめて俺が彼女を忘れる間くらい、待ってはもらえませんか」

「ギルバート」


国王は、珍しく感情的になる息子にさすがに同情を禁じえなかった。


「ギルバート、私の息子よ。……夫婦というものは、結婚してから愛情を育てていくものだ。お前の気持ちはわかった。結婚の発表はしばらく伸ばしてもいい。だが、シャーリーン嬢と少し話をしてみる気はないか。彼女の人となりをもっと知っていけば、お前の傷ついた心が癒されるかもしれんぞ」

「……無理です。シャーリーン嬢は苦手です」

「苦手と思い込んでいるからだよ。ゆっくり話せば、違う面も見えてくる」


ぽん、と肩を叩いて、国王はギルバートの部屋を出る。そして従者のリアンに言づけた。


「リアン、キンバリー伯爵に茶席を用意すると伝えろ。今のギルバートなら、優しい言葉にはほだされるだろう。令嬢には出来るだけ優しくギルバートに接するように伝えてくれ」

「はっ」

「それと。……ギルバートが最近通っている所はどこだ? 女に振られたというが相手はいったい……」

「それでしたら、王子は最近薬室に通っているようです」

「薬室? キンバリー伯爵が招きたいと言っていたあれか。城内の使用人たちの評判はいいと聞いているが」

「栄養剤が効きますよ。私も調子の悪いときに飲みましたが、驚くほど元気が出ます」

「ふむ……店主は女なのだな?」

「ええ、まだ若い女性です。可愛らしい感じのお嬢さんで、薬の処方は的確です」

「優秀な薬屋なのか。それは惜しいが……」


国王は唇を引き締め、腕を組む。


「しかし、ギルバートの心を惑わすような輩は、この城には必要ない」


そう言うと、国王は意を決したように足早に歩き出した。


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