王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「もう……離して」
「キーキー」
威嚇するような声を上げて入って来たのはマグパイだ。大きく羽を広げて、ギルバートを狙うように飛んでくる。
「危ない!」
ギルは咄嗟にエマを守るように抱きかかえる。突然に抱きしめられて、エマは驚き、バームはエマに当たってはと、途中で旋回し威嚇だけを続ける。
「離して。危ないのはあなたよ、もう帰って。……バームもやめて」
しかしバームは威嚇を辞めない。バームは本気だ。いつだって兄のようにエマを心配しているのだ。このままではギルバートに危害を及ぼすだろう。
エマは彼の手を力を込めて叩いた。
「もうこれ以上、私を惑わさないで。……帰ってくださいっ」
はじかれた手と、途端におとなしくなり彼女の肩に乗るマグパイを見て、ギルバートは絶望に似た気持ちを味わった。明らかな拒絶の意思を感じ取って、唇をかみしめる。
「……わかった。悪かった」
ギルバートはとぼとぼと部屋を出ていく。
「ふん。行ったな。腰抜けめ」
バームが吐き捨てた言葉にエマは涙が浮かんでくる。
「腰抜けなんかじゃないわ」
「……エマ」
「……ひどいこと言わないで、バーム」
そのまま、嗚咽を上げ始めたエマに、バームはバツが悪くなり一声鳴いた。
「ちぇ。僕は嫌いだよ、あんな奴。僕のエマをこんなに泣かせるんだから」