王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


 あの日以来、エマはシャーリーンを探していた。
だが、彼女は城下町のキンバリー伯爵邸に住んでいるので、城を訪れた時しか会うチャンスがないのだ。加えて、今はシャーリーンのほうから避けられている。

あの薬を使われたら、大変なことになってしまう。なんとかして奪い返さなければ……と気は逸るばかりだ。


(……だから禁止されているんだわ。ああもうどうしてあんな薬を作ってしまったんだろう。私ったら、なんてバカなの)


一瞬でも自分の欲を優先しようとしたから、こんなことになったのだ。
改めて、自分の迂闊な行動を恥ずかしく思う。

エマとて、ずっと城門付近をうろついているわけにいかない。薬室の仕事があるのだ。
結局、バームにすべてを打ち明けて、協力を仰ぐことにした。


「まさか本当に惚れ薬を作っていたなんて。……馬鹿だなぁ、エマ」

「う……ごめんなさい」

「いや、僕もそそのかしたし。同罪だな。……じゃあ、キンバリー伯爵家の馬車が通ったら、エマに知らせに行けばいいんだな」

「うん。お願いね、バーム」


城門にバームが見張りについてくれれば、格段に楽になる。
エマは薬室に戻り、バームからの報告を待ちながら仕事に集中できる。

午前中に、一度セオドアが薬室にやって来た。


「この間は、本当に悪かった」


大きな体を二つに曲げ、真剣に謝られてはエマもいつまでも冷たくする気にはなれない。


「セオドア様に謝られることじゃありません」

「いや、俺がちゃんとギルバート様を止めるべきだった」


セオドアの顔からは苦悩がにじみ出ている。まだ肩の怪我が治らず、訓練には出ていない様子なので、エマは中へと誘った。

< 102 / 220 >

この作品をシェア

pagetop