王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「止めるって……どういう意味ですか」
「王子が最初に出会ったときから君に興味を持っていたのは、気付いていたんだ」
「最初って、……城下町の店に来た時ですか?」
通ってくれるのは、城に店を開いたからだと思っていた。
けれど、エマはあくまでキンバリー伯爵の指示で薬室を開いていただけだ。思えば王族に紹介されたこともなければ、国王が視察に来たこともない。医者の態度を見ていても、王家の人間にはエマの薬は胡散臭い以外の何物でもないだろう。
(なのにギルは毎日のように来てくれていた)
ほんのり心がほだされて、エマの心は嬉しさと切なさに揺れる。
「王子というのはね、エマが思っているより気づまりな立場なんだよ。自分のことより、国を優先しなきゃならない時が数多くある。……あの日はね、そんなギルの息抜きの日だったんだ」
「息抜き、……ですか?」
「そう。俺とギルは昔からの幼馴染でもあるからね。時々気晴らしに身分を忘れて野がけに出かけるんだ。そのときにうっかり怪我をしてしまって、本来なら医者に見せなきゃいけなかったところ、ギルは息抜きのことがバレるのが嫌で、そのままでいいと言い張ったんだ。だから俺が、君のところに連れて行った。一国の王子に何かあっては大変だからね」
あの日のギルは、酷い怪我を負っていたにも関わらず、どこか声も明るく、楽しそうだった。
「君が会っていた彼は、最初から素のままのギルなんだよ。その後、王子だと告げられなかったのは、彼があの時点で、君にとても惹かれていたからだと思う。エマの前ではおそらく最初に会ったときのままの自分でいたかっただけなんだろうと思うよ。決して君を騙そうとか、からかって楽しんでいたなんてことはないから、それだけは信じてやってくれないかな」