王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
そんなことは分かっている。
彼がエマに向けた瞳は、いつだって生き生きとしていて、本当に楽しんでいてくれた。だからこそエマだって、彼といるのが嬉しかったのだ。
騙されていたとなじる気持ちは、今の話を聞いているうちにしぼんできていた。
けれど、結局のところエマにはどうすることもできない。
「……別に、ギルバート様のことを怒っているわけじゃありません。ただ、身分違いの恋だから……。私も本当に彼が好きになってしまったから。だから冷たく突き放すしか方法がないんです」
「エマ……」
「彼の言葉に甘えても、誰も私を妃にと認めてはくれません。それくらいわかっています。だから……彼に嫌われるしかない」
エマの瞳から、こらえきれなくなった涙がぽとりと落ちる。
やがて嗚咽に変わっていくのを、セオドアはオロオロしながら見つめた。
「すまん……俺は余計なことばかり言ってしまうな」
エマは首を振ることで彼に答えた。そして心の中でひそかに思う。
(シャーリーン様から薬を取り戻したら、母さんとここの仕事を交代してもらおう。これ以上ギルの傍にいるなんて耐えられない。ここにいるとギルのことばかり考えてしまう)
エマの悲痛な決意に水を差すように窓がカツカツと鳴らされた。バームだ。
「うわ、なんだこのマグパイ」
「私の友達です」
驚くセオドアを横目に、エマは小窓を開け、バームを引き入れる。
「エマ、今キンバリー家の馬車が入っていったよ」
「分かったわ」
エマは涙をぬぐい、笑顔を作った。