王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


そんなことは分かっている。
彼がエマに向けた瞳は、いつだって生き生きとしていて、本当に楽しんでいてくれた。だからこそエマだって、彼といるのが嬉しかったのだ。

騙されていたとなじる気持ちは、今の話を聞いているうちにしぼんできていた。
けれど、結局のところエマにはどうすることもできない。


「……別に、ギルバート様のことを怒っているわけじゃありません。ただ、身分違いの恋だから……。私も本当に彼が好きになってしまったから。だから冷たく突き放すしか方法がないんです」

「エマ……」

「彼の言葉に甘えても、誰も私を妃にと認めてはくれません。それくらいわかっています。だから……彼に嫌われるしかない」


エマの瞳から、こらえきれなくなった涙がぽとりと落ちる。
やがて嗚咽に変わっていくのを、セオドアはオロオロしながら見つめた。


「すまん……俺は余計なことばかり言ってしまうな」


エマは首を振ることで彼に答えた。そして心の中でひそかに思う。


(シャーリーン様から薬を取り戻したら、母さんとここの仕事を交代してもらおう。これ以上ギルの傍にいるなんて耐えられない。ここにいるとギルのことばかり考えてしまう)


エマの悲痛な決意に水を差すように窓がカツカツと鳴らされた。バームだ。


「うわ、なんだこのマグパイ」

「私の友達です」


驚くセオドアを横目に、エマは小窓を開け、バームを引き入れる。


「エマ、今キンバリー家の馬車が入っていったよ」

「分かったわ」


エマは涙をぬぐい、笑顔を作った。
< 104 / 220 >

この作品をシェア

pagetop