王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「すみません、セオドア様。ちょっと用事が出来ました」
「用事が出来たって。……エマ、まさか鳥と話ができるのか?」
うっかり普通に話してしまって、エマはぎくりとしつつ、ごまかす。
「まさか。この子を見ていたら思い出しただけです。すみません、セオドア様。鍵を閉めたいので」
「あ、ああ。では俺も出るよ」
セオドアを追い立て、エマは急いで城の廊下を走る。通りすがる使用人が苦い顔をしたが知ったことではない。
そして、中央の階段を上っている途中のシャーリーンをみつけ、大声で呼び止めた。
「シャーリーン様っ、お話があります」
しかしシャーリーンはエマを一瞥すると、ふいと顔を背けて階段を上り続けた。
「シャーリーン様!」
「娘、ご令嬢に何の用だ」
城の衛兵に引き留められ、エマはどうあっても彼女に近づけない。
「返してください、薬! お願い」
シャーリーンは足を止め、皮肉気に笑った。
「薬? 何のこと?」
「そんな……」
「私に言いがかりをつけるなんて、困った人だこと。……お父様に言っちゃおうかしら」
「……っ」
そのまま、シャーリーンは二階へと行ってしまった。声を聞き付け、追いかけてきたのはセオドアで、
「エマ。……君たち、彼女は薬室の子だ。離してやってくれ」
あとから追ってきたセオドアのお陰で、衛兵にそれ以上追及されることはなかったが、エマはシャーリーンを止められなかったことにショックを受け、ただ黙って薬室へと戻った。