王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


先日、薬室で王子の正体をエマにばらした後、シャーリーンはギルバートに振られていた。


「好きな人がいるんだ。だから君もヴァレリア殿も選ばない」


彼ははっきりそう言ったのだ。
だけど諦められるはずがない。シャーリーンは彼に選ばれるためだけに、この二年間を生きてきたのだから。
薬の効果でも何でもいい。彼が振り向いてくれるなら悪魔に魂を売ってもいい。

シャーリーンは笑顔を作って、ギルバートのもとにお茶を持って行く。


「どうぞ。侍女においしいお茶の淹れ方を習ったのです。結婚したらいつでもこのお茶を淹れて差し上げますわ」

「シャーリーン殿。この茶会が父が催したものだというのは分かっている。だから出席はしたけれど。……言っただろう、俺の気持ちは変わっていない。俺は……」

「分かっていますわ。私はただ、ギルバート様にお茶を味わっていただきたいだけですの」

「お茶か……」


ギルバートは苦しそうに瞳をゆがめた。
そして、ティーカップへ手を伸ばす。だが、カップの中に広がる水面を見つめながらギルバートは切なげにため息をついた。


「……お茶を淹れてくれるのが上手な娘がいたんだ。屈託なく笑う、可愛い女性で。……俺は」


シャーリーンの期待に反して、ギルバートは持ち上げたカップをティーソーサーに戻す。


「すまない。茶は彼女を思い出すんだ。……失礼してもいいか」


シャーリーンの胸を、ギルバートの言葉が串刺しにする。
彼のためにとしてきたことすべてが、無に帰する恐怖。どうあってもこちらを見てくれない頑なな姿にも胸を締め付けられる。

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