王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「やあ、遅くなってすまない」
「ギル」
「今日中にカタ付けることが難しくて。でもひとりでこんなところで夜を過ごさせるわけにいかないよ。俺も一緒にいる」
笑顔で近づいてくる彼は間違いなくギルバートだ。みすぼらしい牢には似合わない、たくましい体躯にきらびやかな服を纏った王子様。エマは慌てた。
「だめよ、あなた王子様なのに」
ギルバートはきょとんとし、はは、と笑うと、エマの唇に人差し指をあて、魅惑的に微笑んでから床に座った。
「……王子は床に座らないと思うかい?」
「ここは冷たく寒いわ。あなたがいるような場所じゃない」
「冷たくて寒い場所に愛する人をひとりにして、自分だけ柔らかいベッドで眠るような男が、国を守れると思うか? 人ひとり守れないのに」
「……ギル」
ギルバートには説得力があった。それを受けるのが自分だからと思うから素直に受け入れられないだけだ。例えばセオドアがヴァレリアを助けるために同じことをしようとしたならば、エマだって「その通りです」と言っただろう。
「牢で寝るくらいのこと、なんてことないよ。君をひとりで泣かせているよりずっとましだ」
そして、一度彼の言葉を受け入れる隙ができたら、エマが頑なに閉じていた殻は壊れてしまった。彼の言葉が、大雨に打たれたときのようにエマのすべてに降り注ぎ、浸透していく。
「……どうした? 急に黙って」
気が付けば涙がこみあがっていた。エマはそれを見せるのが嫌で、腕で顔を隠すようにして鼻をすすった。
だけどそれも、すぐにギルバートによって取り払われる。