王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「騎士団も、彼女がいなくなって士気が下がっております。騎士団には医師に頼むまでもないちょっとした怪我が多く、エマは些細なことでも丁寧に応対してくれるいい薬屋でした。アフターケアもしっかりしています。こんな気配りができる女性は、俺はあまりいないと思います」
「セオドアまで。……お前たちだってわかるだろう。いくら人柄がよくても、王家に大事なのは血筋や格なんじゃ。そこいらの庶民の娘を入れるわけにはいかぬのだよ。仮に国民が納得したとしても、この国の政治を動かしているのは多くいる貴族たちが納得しなければ、お前が苦労するんだぞ、ギルバート」
国王が苦悩を露わにしたそのとき、ひとりの男が謁見室へ入ってきた。
「それに関して、私に提案があります」
「君は、……メイスン君」
現れたのはデイモンだ。鋭い眼光を光らせたこの老年の男の登場に、ギルバートも息を飲む。
「昨日のお話の続きです」
「父上、この方は?」
「メイスン商会の会長だ。お前も聞いたことくらいあるだろう」
「ええ。輸出額が高い商会でしたね。……でもそんな大商人がどうして」
不思議がるギルバートに、デイモンは挑戦的なまなざしを送る。
「我が商会が作る薬や化粧品だけでなく、他の小さな店も輸出によって利益を出せるように、商人ギルドの開設を持ち掛けているのです。昨日は途中で話が終わってしまいましたが」
「その話は分かったが、今は取り込み中だ。また後で来てはくれないか」