王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
そこに、衛兵に連れられたエマが姿を現した。エマはまだ状況が飲み込めていない。
「釈放だ」と言われ、喜んでくれた牢番との別れもそこそこに、ここに連れてこられたのだ。
「エマ!」
ギルバートは、エマを見つけたとたんに駆け出し、彼女の姿が誰からも見えなくなるように抱き締める。
「ちょっと、ギル。人前っ……」
「だってエマ。嬉しくて気持ちが収まらないよ。俺はやっと君が好きだとみんなに公言出来るんだ。ほら、こっちへおいで。父上に挨拶してほしい」
「えっ」
エマが改めて謁見室の中を見渡すと、国王と側近の二名、記録官、ヴァレリアとセオドア、そしてなぜかデイモンまでいる。
半ばパニックになりながらも、エマはギルバートに連れられて国王の前で一礼した。
「え、エマ=バーネットと申します。父は城下町で『グリーンリーフ』という店を経営しています」
声が震え、エマの心臓は大暴れしている。昨日、怒鳴るように「牢へ連れていけ」と言った声をまだ忘れていない。国王に対しては恐怖心のほうが強かった。
しかし、そんなエマの想いとは裏腹に、国王がこぼしたのは、どこか諦めに満ちた声だった。
「それに今後は商人ギルト長という肩書が加わるそうだよ。……ギルバートの意向をうけ、君を王太子妃に迎えようと思う。そのために、今後はお妃教育を受けてもらわねばならん。今までの君の暮らしにはないことばかりだ。耐えられるか?」
エマは顔を上げた。国王のまなざしは、エマを蔑んでも憐れんでもいなかった。ただ、エマの決意を問うことで、彼なりの物差しでエマを計ろうとしているようだ。