王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
エマも、一瞬黙って考える。
国王が言っているのは現実だ。今までしたこともないダンス、上流階級との会話、マナー、ふるまい。どれをとってもエマには初めてのことばかりで、辛い思いをすることが多いだろう。もちろん、生活は一変する。身分の違いとはそういったものなのだ。これまで暮らしてきた場所とは違う土台に立つには、生半可な覚悟ではつぶれてしまう。
そう思えば、今まで国王が反対し続けた理由も分かるような気がした。
「……それでもギルバート様が私を必要としてくださるなら。私は彼の薬になりたいのです」
「薬?」
「ええ。弱ったときには体を直すお手伝いを、健康な時は心が塞がないよういつも笑顔で。私は、彼や彼を支えてくれる方々の薬のような存在でいたいのです」
国王はまぶしいものを見るときのように目をすがめ、疲れたような声を出した。
「……なるほど、お前の欲していたのはそういうものか」
「どうです? 父上。彼女はこの国にとってもいい王妃になってくれるはずです。俺はそう信じています」
意気揚々としたギルバートは、王にはまぶしかった。まだまだ青臭く、理想論で生きるような王子は、老獪な貴族たちとの政治の駆け引きに、おそらくとても疲弊するだろう。そういう意味で、国王は強い後ろ盾となる貴族をギルバートの義理の父親にしたかった。けれど、王子自身が求めているのは、どれだけ傷つけられたときもまた力を取り戻させてくれる、優しい妃なのだ。