王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「離して。ギルも知ってるでしょう? 昨日は牢に居たんだから汚いわ。匂いなんて嗅がないで」
「君の香りだ、汚いことなんてないよ」
「もうっ、私にだって乙女心くらいあるのよ。好きな人に触られる時は綺麗でいたいの!」
「そう思うなら俺の男心だって汲んでよ。大好きで追いかけた女の子がようやくこの手に落ちてきてくれたのに、キスのひとつもさせてくれないの?」
言われて、思わずエマは顔を上げる。
「……キス? 私と」
「そんな驚かなくてもいいだろう? 好きな人とキスしたいのは当然のことだ。君だって昨日は嫌がらなかっただろう」
「だって昨日はまともな状況じゃなかったし……」
「今もそうだろう? 昨日は牢、今日は王太子の私室だ。君にとっては、珍しい場所だろ?」
「そりゃ……」
首の後ろを抑えられ、ギルバートの唇がエマのそれを塞ぐ。
恥ずかしくてドキドキして、だけど繰り返されるそれに安心もする。
キスが甘い、なんて実際にはあるわけない。味覚としては全然甘くなんてない筈なのに、心の奥が、甘いものを食べた時のように浮き立ってふわふわしてくる。
「ギル……」
「エマ、好きだよ」
手が絡められる。目元や髪、いろいろなところにキスを落としながら、ギルバートはエマの髪を優しく梳いていく。
エマがうっとりと彼に身を持たせかけた時、ギルバートの私室の窓がカツカツと激しくたたかれた。