王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「……バーム!」
窓の外にバームの姿を見つけ、慌ててエマはギルバートの腕から逃げ出し、窓辺へと駆け寄った。
「ギル! この窓を開けてもいい?」
「いいけど。……そのマグパイは」
「バームよ。昨日帰らなかったから心配して探してくれてたんだわ」
エマが窓を開けると、バームはすぐに入って来て、鏡台の上に停まる。
「全く、こっちは一晩心配し続けていたっていうのに。なにやっているんだよ、エマ!」
「バーム、落ち着いてよ。私、昨日は牢に閉じ込められてて、窓がないからあなたを呼べなかったの。忘れていたわけじゃないし、今はようやく解決して気が抜けていたから。……その」
ギルバートの耳には、バームの声は「クルッコロ、キュルキュル」としか聞こえない。
しかしあまりにもテンポのいい彼女とバームのやり取りに、ギルバートはようやく思い至った。
「ちょっと待った、エマ。……まさか、鳥と話せるのか?」
エマはきょとんとし、バームと目を見合わせ、困ったように肩をすくめる。
「ギル。信じてくれたんじゃなかったの? 私が魔女だって」
「魔女……そうか。本当に魔女なんだ」
「一大決心で告白したのに、信じてなかったの?」
「いや、そういうわけじゃないけど。そうか。すごいな、そんなこともできるのか」
そしてふくれっ面のエマの頬をツンと叩くと、バームに呼びかける。
「バーム。俺はエマを妃にすることにしたんだ。君にも祝福してもらいたい」
「はぁ? 何勝手に決めてるんだよ。エマは薬屋だぞ? なあ、エマ」
「バーム。本当なの」
「は? 嘘だろ? 僕のエマが結婚? こんな男と? 本気かよ」
エマが頷くと、バームはショックを受けたように、「帰る」と言って出て行ってしまう。
「……なんて言っていたんだ、エマ?」
ワクワクした目でギルバートに見つめられ、エマは困ってしまう。
「信じられないみたいで行っちゃった」
「……そうか、残念だな。俺も彼の言葉が分かればいいのに」
(知らないほうが幸せかも知れないけど……)
残念がる彼が可愛らしくて、エマは心の底から笑ってしまった。