王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
ベティは一瞬真顔になって、エマとギルバートに向き直る。
「エマ、あなたが王太子妃になってもならなくても、私たちの仕事は変わらないの。薬を作って必要な人に売るだけ。あなたはこれから王太子妃としていろんなことに直面するんだろうけど、王家のことは私たちには分からないし、助けようがないわ。自分で頑張れる?」
「うん」
エマが神妙に頷くのを確認した後、今度はギルバートに向かって言う。
「王太子殿下。あなたにお願いするしかないんです。エマは私とジョンの大切な娘です。この子が笑顔を失わないよう、どうか力を尽くしてくださいませ」
最後はかしこまって、ベティは頭を下げた。
「義母上。もちろんです」
ギルバートはベティの手を取り、指の付け根にキスをした。誓いを立てる騎士のように。
「ちゃんと僕が見張っていてやるよ。泣かせたら頭をつついてやる」
窓の外からバーグが必死に叫んでいる。最も、その内容が聞こえるのはエマだけだが。
ギルバートはバームに興味があるらしく、またも身を乗り出して聞いてきた。
「また鳴いてるな。エマ、なんて言ってるんだ? バームは」
「……知らないほうがいいと思うわ。私」
エマは苦笑しつつ、バームに窓をつつかないようにと手振りで合図をした。