王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
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エマの王城での暮らしが再び始まる。
当座のエマの部屋は、二階のヴァレリアの部屋近くに決まった。
「エマ殿とうちの娘は親しい間柄らしい。ぜひ、友人として王妃教育に協力をさせてもらえませんか」とマクレガー侯爵が言い出したのだ。
元々、有力な妃候補であったヴァレリアには相応の教師が雇われている。一緒に学べば身につくのも早いし、教育が行き届いているヴァレリアは礼儀作法の相手役としてはうってつけだ。
「エマさん、カップの角度がおかしいわ」
「カップに角度なんて関係あるの?」
「殿方に口を見せないようにするのですわ。体を前のめりにするのではなく、カップをこう傾けるのです」
「ギルはそんなこと気にしなかったわ」
「王太子様の前ではいいですが、社交場に出た時は粗を見つけられます」
ヴァレリアはなかなかに厳しかった。作法の先生の授業が終わってくつろいでいる間もチェックを忘れない。
「……私、エマさんが馬鹿にされるなんて嫌です。あなたが思っているより、貴族の令嬢の間は粗の見つけ合いなんですのよ。なるべく隙を見せないように」
「わかったわ。ヴァレリア様。でも私、もともと庶民だもの。失敗して当たり前じゃない? ギルはそんな人たちは放っておけっていうわ」