王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
今は薬屋ではないし、王太子殿下の婚約者として毎日忙しい。
けれども生まれてこのかた、ハーブに囲まれ、薬を作り続けて暮らしてきたエマにとって、それらを手放すことは難しかった。
以前よりは小規模だがハーブを持ち込み、ちょっとした薬を作ったり、ハーブティを調合したりしている。
ギルバートが毎日エマの部屋に通うのは、ハーブティを作るという行為を、周囲にも認めさせるためでもある。
“王太子殿下がお望みだから”という理由があれば、エマから以前の生活の楽しみ奪わずに済むし、実際にエマのハーブティは疲れが取れるので実益も兼ねている。
「ああ、うまいよ」
「よかった。今日のお茶には、セントジョーンズワートを入れてあるの。前向きになると言われているハーブよ」
「そうか。……ところで君に相談なんだが」
急にギルバートがかしこまり、ソファの隣に座るように席を叩く。
エマは素直に彼の隣に収まり、その整った顔を見上げた。
「……シャーリーン嬢とキンバリー伯爵が領地に戻るそうだ」
「そう」
あの後、シャーリーンとキンバリー伯爵は城下町の屋敷に謹慎させられていた。本来、王太子に薬を盛ることは犯罪だ。投獄されてもやむを得ない状況だったが、エマはそれを望まなかった。
薬のことを内緒にする、来年の社交期までは自領で父親ともども自粛するこという二つの条件を飲む代わりに無罪釈放することにしたのだ。