王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「そうだ、エマ。今度の貿易船にのってきた吟遊詩人の評判を受けて、父上が彼を招いての夜会を開くそうだ。君も出席してほしい」
「吟遊詩人?」
「ああ。大陸では有名らしい。英雄譚を謳うものたちのようだよ」
「じゃあ異国のお話が聞けるのね? 楽しみだわ!」
「ああ。それで、ドレスを新調してはどうかと思うんだ。母上もそのつもりで仕立て屋を呼んでいるらしい。一緒に見てこればどうだい?」
「もったいないわ。結婚してからもう何着ドレスを作ってもらったか数えきれないほどなのに」
「だが、舞踏会にするようだから、踊りやすいドレスのほうがいいし、賓客というわけでもないから、今までのものより細身でシンプルなもののほうがいいだろう」
「そういうものなの? ……分かったわ。じゃあ王妃様のところにお伺いするわね」
細部にまで装飾の施されたドレス、専門の髪結いが結い上げる髪型。彼女を飾るものは以前と比べて格段に高価できらびやかなものへと変わった。それだけじゃなく、エマ自身が恋を知って変わった。つぼみだった彼女は、恋を知って開花したのだ。ただ優しく相手に安心感を与えるだけだった微笑みは、今は男の胸をときめかすくらいに内に色気を秘めている。
それは僕にはあげられなくて、あいつには与えられたもの。
……ムカつくから、ギルバートには教えてやらないけれどな。
エマはギルバートに連れられて部屋を出て行ってしまった。そうなるとここにいる意味もない。僕は再び飛び立ち、自分のえさを探しに近くの森のほうまで飛んだ。