王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


そして夜会の日がやってくる。
大広間から出られるテラスに一番近い木の上から、僕はうとうとする自分を叱咤しつつ、にぎやかな音のなるほうを眺めていた。
ワルツの音が響き、両開きの扉から、揺れる女性のドレスの裾が時折見える。

エマもギルバートと踊っているのだろうか。ダンスに関しては相当苦手のようで、ギルバート以外とは踊らないと断言していたけれど。

そう思いながら見ていたら、中から扉が開いて、ギルバートがエマを連れてやってくる。
広いテラスはいつもなら多くの人が中と行ったり来たりするのだが、今日はみんな中にばかりいて、出てきたのはエマたちが最初だ。


「ふう、疲れたわ」

「ずいぶん上手になったよエマ。ステップも間違わなかったじゃないか」

「でもあなたの足を踏んだわ。三度もよ」

「大丈夫、誰にもばれてないよ」


片目をつぶってみせたギルバートは、エマの肩をなれなれしく抱いて、キスしようと顔を近づけた。
そうはさせるか。


「クロッコロッ」

「バーム!」

「うわあ、びっくりさせるなよ、バームか」


僕が手すりのところまで降りていくと、エマは嬉しそうに目を細める。


「バーム。今日は大陸から吟遊詩人がふたりが来ているのよ。面白い話をたくさん聞いたわ。あなたにも聞かせたかったわ」


「クロッコロッ」
後でエマが教えてくれればいいだろ。

「それもそうね」

エマの息からアルコール臭がする。それに、ほほのあたりがほんのり赤い。
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