王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「クロッコロッコロッ」
お前、エマに飲ませたな?
ギルバートに呼びかけてみるも、話が通じない。僕はむしろ怒っているのに、ギルバートは嬉しそうに身を乗り出してくる。
「お、俺に話しかけてる。なんだ? バーム。お前も混ざりたいのかい? 俺もお前と仲良くなりたいよ。なんていったってエマの兄貴分なんだろ?」
ああそうだよ。お前なんかよりずっと、エマのことを見てたんだ。
今日のエマは、パールピンクの体の線がわかる細身のドレスだ。汗のせいでうなじに張り付いた後れ毛が一層色っぽく、僕としたことがほんの少しドキリとしてしまう。
ギルバートも、エマの耳たぶを触ったりと無駄にスキンシップが多いあたり、人気のないところでエマといちゃつきたいと思っていたんだろうが、あいにくだったな、僕というお目付け役がいることを忘れるなよ。
と、扉が開き、ギルバートの従者が顔を出した。
「あ、ギルバート様、こんなところに。吟遊詩人のアンジェロ様がぜひお話ししたいと」
「父上ではなく俺に? 分かった。すぐ行く。……なんだろうな。エマも一緒に行くかい?」
「私はもう少しここにいるわ。風が冷たくて気持ちいいもの」
「だが、ここは一階だし、警備が回っているとは言え危険がないとは言えない。それに、ほかの男が休憩に出てくるかもしれないし……」
「大丈夫よ。ひとりじゃないもの」
さらりと言ったエマに、ギルバートは一瞬変な顔をした。が、僕がふわりとエマの肩にのると、ようやく僕の存在を思い出したように「ああ!」と頷いた。