王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「そうか、そうだな。バーム、エマを頼んだぞ。……話が終わったらすぐに戻ってくるから」
「ええ。行ってらっしゃい」
ギルバートは気に入らないけれど、そうやって僕を信用するところは、嫌いじゃないぞ。
ギルバートが中に消えていくと、エマは欄干によりかかるようにしながら、鼻歌を口ずさむ。ご機嫌だな、今日は。
「ねぇ、不思議ねぇ。バーム。ただの薬屋だった私が、こんなドレスを着て踊るようになるなんて」
「ダンスねぇ、できるのか?」
「下手だけど、体を動かすのは楽しいわ。バームもやってみる? こうするの。ワン、ツー、タタタン!」
エマが体をひねりながら足を小刻みに動かす。手を伸ばし、踊りに誘うポーズだ。どうやら、見た目以上に酔っているみたいだ。
仕方なく、僕は彼女に付き合うことにする。ふわりと宙を舞い、エマの肩のあたりから左手のほうに一気に飛ぶ。
それに合わせて体をターンさせるエマ。
「ふふっ」
少し酔っ払ったエマは、本当に楽しそうで、かわいい。
中からかすかに聞こえてくる音楽に乗って、僕とエマのふたりだけの舞踏会。
うん。悪くない。いや、かなりいいぞ、これ。
やがてエマは僕を腕に乗せたまま欄干によりかかった。
「……バームと話せるから、ちゃんと今まで通りの私」
「え?」
「私……、毎日毎日、これは夢なんじゃないかって思っちゃうの。だって王太子妃よ? 毎日人に囲まれて、王太子妃としての勉強に励んで、貴族の奥方とお茶会をしたり……嘘みたいな生活をしてるんだもの。ときどき別人になったんじゃないかって思っちゃう。でも、バームと話すことで、安心するの。ああ私は、ちゃんとエマだって」
「エマ」
「バームがいてくれて、……本当にうれしい。ありがとう。大好きよ、バーム」
なんだよ。そういう、しんみりしたこと言うのやめろよな。僕はまだまだエマから離れる気なんてないんだから。