王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
でも、その時不意に気づいた。
僕はエマの最期をみとるほどは、長くは生きられないってこと。僕は、すでに十六年くらい生きている。仲間の鳥を見ていても、せいぜい生きれるのはあと十年くらいだろう。
僕がいる間は、何があってもこの笑顔を守ってみせる。
だけど僕が死んだら?
うぬぼれるわけじゃないけど、エマは僕が死んだら必ず泣く。
そこから立ち直って、ずっとエマが笑っていられるためには、一体どうすればいいんだ?
考えに沈んだ僕に、エマが不思議そうに問いかける。
「どうしたの? 疲れた?」
いや……と答えようとしたとき、急に大広間との間をつなぐ扉が開いた。
ギルバートが戻ってきたのかと顔を上げると、見知らぬ男がそこにいた。たれ目で、くすんだ金髪をしているが、整った顔の男だ。手には小さなハープに似た楽器を持っている。
エマはすぐに気を取り直したように背筋を伸ばし彼に向かった笑いかける。
「あなたは、……ええと、フィリッポ様ですね」
「王太子妃様。名前を憶えていただけるとは光栄です。こんな寂しいところでどうしました?」
フィリッポは恭しい態度でエマのもとへと近づいてくる。
「少し酔ってしまったので、休憩していたんです」
まさかマグパイと踊っていたとは言えないのだろう、エマはぎこちなく笑ってごまかした。
僕はエマから離れ、少しだけ離れた木の枝にとまった。するとフィリッポという男は不思議そうに眉を顰める。