王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~

「なにか動きましたね。しかしこんな夜に……?」

「フクロウがいるのかもしれませんね」

「フクロウがこんな人里に来ますかね。まあいい、せっかくお美しい王太子妃様といるのに、こんな話は野暮です。……お隣、よろしいですか?」

エマが身を固くした。
いくら市井あがりの王太子妃とは言え、突然なれなれしくされるのはおかしい。
僕にも緊張が走り、何かあればとびかかっていけるように警戒を強めた。

フィリッポは気を取り直したようにハープを構え、たれ目をますます緩ませて笑う。

「一曲お聞かせしましょうか。僕が探し続けているものの歌です」

男の細い指が、驚くほど細かく動く。だが、きれいな旋律に、一音だけ調子はずれな音が混じり、神経を不快に乱していく。

「かの人はその指からいくつもの奇跡を作り出す。人を救い、人を守り、まじないに願いをのせ、悪人にはバツを与えん。すべては彼女の思う通り。魔女の力、侮るべからず」

男が謳ったこの歌詞にエマはびくりと体を揺らした。
その反応を見て、男は笑って弦をはじく。胸をざわつかせる和音が響いた。

「知ってますか? 我々吟遊詩人の間で、まことしやかに歌い続けられている“魔女”の歌です。僕らはこの国に来るのが夢だったんです。何せ、かつて魔女狩りまで起こった国だ。それに最近輸入されている薬。効き目からみても、常人が作るものではないと思った。必ずいると思ってきたんですよ。魔女の末裔が」

「……魔女……」

「先ほど、マグパイと話していましたね。……あなたが魔女なのではありませんか?」

やばい、と思い、僕はエマと男の間に勢いよく飛んだ。
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