王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
エマはおびえた様子だったが、気丈に言い返した。
「嫌よ。……私は、行かないわ」
だが、話すのもつらそうだ。
僕は何があってもエマを守る。しかし、今吟遊詩人が二人とテラスの外にも男がひとり。幸い、吟遊詩人の旋律の魔法は、鳥の耳には届きにくい音なのか、僕自身は体が重くなった気配は全くない。だが、動けるからと言って合計三人を相手に戦えるかと思うとイエスとはいいがたい。
せめてもう一人、人間の味方がいないと。
「あなたも魔女でしょう? 仲間のもとに行きたいと思いませんか?」
「私は一人じゃない。それに、この国の魔女は人と共存するために今頑張っているのよ」
「エマさま。私は正直、魔女が王太子妃になったことに驚きを隠せません。確かにこの国は変わろうとしているのでしょう。ですが、国民みんなが魔女を認めているわけではない。この国に来てから、我々はいくつかの町を巡ってきました。人を虜にする我々の旋律に、敵意を向けてくるものもいましたとも。そういう人間たちが、やがて異端を弾圧するのです。そう、それこそが、百二十年前の魔女狩りです。変わろうとしたとことで、人間なんてものは変わり切れるものではないんですよ。……そこで我々は逆に考えたのです。魔女の力を廃れさせるわけには行かない。僕らの国に渡った魔女の子孫も、数少なくなっているのです。だから女性の魔女が欲しい。子孫を増やして、魔女だけが生きる国を作りたいのです」
フィリッポの発言に、僕は嫌な予感がした。“女性の”に限定する当たり、こいつらの本来の目的が透けて見える。