王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


「私は、行きません。王太子妃をさらったら、……国家間の争いに、なりますよ。あなた方が、イデリア国から来たということは皆が知ることです」

「国同士でつぶれてもらうのも我々には好都合ですよ。何もなくなった焦土に新しい国を建設してもいい。それまで、どこかで隠れるもいいでしょう。力の強い魔女は長命ですから」

庭から現れた男がテラスに向かって手を伸ばす。乗り越えてこられたら終わりだ。そして僕は動けるけれどたかだか一羽。エマを守るには力が足りなすぎる。味方となりえる人間はひとりしか思いつかなかった。

僕はまず、フィリッポに向かってとびかかる。

「うわっ」

突然の動きに驚いた男は、ハーブを取り落とし、慌てて拾いに行く。

「こいつっ!」

向かってきたアンジェロの顔めがけてとびかかり、目のあたりを頭をひと蹴りしてから、一気に扉に向かった。
だが、重い扉は僕の体当たりではなかなか開かない。

「バームっ」

エマは、うまく動かない体を引きずるようにして扉に近づき、ほんの少しの隙間を作ってくれた。

アンジェロとフィリッポが追いかけてきたが、捕まる前に中へと滑り込む。
中は何事も起こっていないかのように歓談している。楽団員は手を動かしているようだが、実際には楽器にまで当たっていない。何の音もしていないのに踊り続けている人々が、いっそ滑稽だった。

普段ならば悲鳴を上げられるところだろうに、僕が入ってきたことにも誰も気づかない。
僕は国王と話しているギルバートを見つけだして周りを飛ぶ。しかし、ギルバートも魔法にかかっていて、僕が飛んでいるのにも気づかない。
ああもう、とっとと目を覚ませよ、バカ。
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