王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~



 ギルバートは、ここ数日城の中に異変を感じていた。

使用人たちの表情がなんだか明るいのだ。
いつもはギルバートが通ると一斉に静まり頭を下げるものだが、今日は話に夢中で本当に近くに行くまで、気付かずにいる不敬なメイドもいた。


「すみません。ギルバート様」

「いいや。なにか楽しいことでもあったのか?」


ギルバートは気さくなタチだ。気が向けばメイドだろうが掃除係だろうが話をする。
返事がもらえると思っていなかったメイドは、顔を真っ赤にして答えた。


「新しいお店のことでつい夢中になってしまいました」


それを聞いて、ギルバートは城下町のグリーンリーフを思い出す。
城下町に新しい店ができたなら、それを覗きに行きがてら、またあの店によってもいい。

あの日のギルバートの怪我は、三日で跡も残らず綺麗に治った。
これなら、医師の治療よりも格段にいい、とひそかに思ったものだ。


「そうだな。礼を言いにいく……っていうのもいい口実だ」


思い立って、ギルバートは三階の自室に戻っていつもの変装用の騎士服に着替えた。

あの娘にもう一度会う口実が出来たというだけで、不思議と心が湧きたっている。

またお茶を入れてくれはしないだろうか。
そうだ、街の様子を知るのも王太子の重要な役割だ。
これを機に定期的に街に降りてもいいんじゃないか。

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