王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
国王を言いくるめる方法を検討しながら、ギルバートは浮かれ気分で階段を下りる。
セオドアがいるようなら付き合わせようと思い、城の一階、騎士団の詰め所に抜ける裏口を早歩きで歩いているとき、医師の部屋の向かいが改装されているのに気付いた。
「あれ? ここにこんなものあったかな」
扉を見れば、看板が掛けられている。
『出張・グリーンリーフ。お薬販売してます』
「……グリーンリーフ?」
ギルバートは思わず、扉を開ける。
「いらっしゃいませ」
ギルバートの目に、先ほど思い描いたとおりの笑顔が飛び込んでくる。
「今日はどうなさいました? ……あ、あなた。前にお店に来てくれた。……ええと」
「ギルだ」
「そう。ギル様。あれから怪我はどうですか?」
「もうすっかりいい。傷も残っていない。……見るか?」
「はい、確認しますね。失礼します」
エマが近づいてきて、ゆっくりとギルバートの袖をまくり上げる。
ギルバートは信じられない思いでその姿を見た。
ちゃんと自分に触れている。ということは、幻ではないらしい。
しかしどうしてだ? そもそもこの出張グリーンリーフというのは何なのだ。
「うん。綺麗になっていますね。痛みもないですね?」
「ああ。……ところでどうして」
「聞いておられないですか? 城内で薬の需要が高まっているから、一室で販売するようにとのお達しです。騎士団の方にはもう伝わったと思っていました。この間、セオドア様も来てくださったし」