王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
セオドアめ、なぜ教えてくれないんだ。
ギルバートは思わず舌打ちする。
「ギル様は何隊に所属なんですか? それとお名前、……ごめんなさい。きっと愛称ですよね。ギルバート様でいいのでしょうか。王子様と同じお名前ですね」
「いや、俺はギルだ。それに、ギルバートなんて名前はたくさんある。王子が生まれた年はあやかって同じ名をつける親も多いし」
「そうですね。城下町の近所にもたくさんいました」
であれば、彼女が“ギルバート”という名を呼ぶのは自分が最初じゃない。
そんなくだらないことが気になり、ギルバートは恥ずかしくなった。
「……ところで今日はどんなご用件ですか?」
患部の確認を終え、かしこまって言う彼女は完全に仕事モードだ。
ギルバートは若干うろたえつつ、「いや、通りかかったら知った名前があって。……驚いて」ともごもごと続ける。
「週末はお休みしますが、基本平日はここで薬を販売します。症状によっては処方もしますので、困ったらいつでもいらしてください」
「……お茶は?」
「え?」
「君のお茶は、どうやったらいただける?」
エマがきょとんとギルバートを見上げる。控えめな貴族の令嬢は目を合わせることはない。気の強い令嬢はもっと勝気で誘うような瞳を向けてくる。
そのどちらでもない、目を丸くしたエマの表情は、ギルバートの口もとを緩ませる力があった。