王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「お茶が飲みたいんだが」
「は、はい! いいですよ。今入れますね」
「急いでいない。……ソファに座っても?」
「もちろんです。ギル様はお客様ですもの」
お湯を取ってきます、と慌てて部屋を出ていくエマを見送ってから、ギルは不貞腐れた気分であたりを見回した。
「客か。……優しいのは客だからか」
それでも、もっと話をするのに他に手がない。
それにしても、いつの間にこの部屋を改装したのだろう。前はただの空き部屋だったはずだ。
ギルバートの耳にまで入ってこないということは、国王お気に入りの貴族がパトロンになっているのだろう。
考えているうちに、エマがお湯をピッチャーに入れて戻ってきた。
「ギル様。最近困っていることはあります?」
「困りごと? ……そうだな、父上がうるさくてちょっと面倒だなと思ってはいる」
「では、ストレスに効くお茶を出しますね」
エマは棚からハーブをとりだしている。ギルバートが興味深く見つめていると、照れたように笑って「そんな難しいものじゃありません。ハーブティーです」という。
そして出されたハーブは柑橘の香りがする黄色のオレンジの中間のような色のお茶だった。
「……うまい」
「わ、良かった」
「これは売り物か?」
じっと見つめられ、エマはたじろいだ様子だったが、すぐに苦笑した。