王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「エマはうぶなんだから気をつけろよ。変な男にひっかかるんじゃないぞー」
バームはまるで保護者のようだ。エマは唇を尖らせてバームが出ていくのを見送る。
(ちょっとくらい、ロマンスを期待したっていいじゃない)
なんと言っても、エマはもう二十歳なのだ。人並みに結婚への憧れはあるし、男の人と話せば胸がときめくことだってある。ましてギルはエマが今まで出会ったどの男の人より、カッコいいのだから。
だけど、それが叶わない願いだということも、頭ではちゃんとわかっている。
ひた隠しにしている“魔女”の血筋。
秘密を持ったまま、結婚なんて出来るわけがない。
(どうせ、騎士団の人たちは貴族様がほとんどだもの。私なんかには手の届かない人たちだわ)
それでも、恋する気持ちくらいは持っていたかった。
顔を見るだけで胸がときめき、気持ちがふわりと浮き上がる。
絶対に叶わないことが分かっていても、育つ気持ちは勝手に止められない。
エマはため息をついてギルバートの飲んだティーカップを片付ける。
外で騎士団員たちの訓練が始まり、洗い物で出入りする合間に何度か覗いたが、そこにギルの姿は見つけられなかった。