王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


ギルバートはその日、訓練が終わったら部屋に来るように、とセオドアに告げていた。
そして、部屋の扉がノックされると、相手が開けるよりも先に、自ら扉を開けたのだ。


「お、おお。これはお出迎えありがとう……ございます?」

「変な挨拶はいい。早く入れよ」

「どうしました、殿下」

「彼女がいた」


ギルバートが頬を赤く染めたのを見て、セオドアは一瞬眉を顰める。


「……エマのことですか?」

「そうだ。セオドア! お前知っていたんだろう。なぜすぐ教えてくれなかったんだ」

「あなたが夢中になったら困るからですよ」


スパっと言い切られて、ギルバートは目をぱちくりとさせた。


「なぜ、ダメなんだ。彼女はいい子だ。元気で、薬の知識も豊富だし、一緒にいると楽しい。心が浮き立つんだ。こんなのは初めてだぞ?」

「彼女はただの薬屋です。あなたの恋の相手にはなりえないし、遊びで付き合うには純粋な娘です。戯れはやめてあげてください」


セオドアの真剣な瞳に気おされて、ギルバートは一瞬怯んだ。しかし、気を持ち直したように顔を上げ、まるで自分にも言い聞かせるように続ける。


「別に……そういうんじゃない。ただ、薬の話は面白いし、あの子は茶を淹れるのも上手い。……いいじゃないか。城にいる間、ほんの少し気晴らしがしたいだけだ」

「あのですね……あなたが気晴らしだと言い張っても、周りはそう思わないんですよ?」

「大丈夫だよ。彼女のところに行くときは変装していく。騎士団の一団員が薬を貰いに行くのは別におかしいことじゃないだろ」
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