王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
食い下がるギルバートに、セオドアはため息をつく。
そして敬語をやめ、敢えて愚かな弟をたしなめる兄のような口調で言った。
「そんなの……すぐにばれるだろう。ただの城下町の平民ならば王族を近くで目にする機会はないだろう。しかし、城に仕えた以上はなにかの折に王子と顔を合わす機会も出てくるだろう? そのときにようやく騙されていたと知ったら、彼女がどう思うと……」
「うるさい!」
怒気を含んだ鋭い声に、セオドアは肌がひりつく感覚がした。ギルバートが今まで見たことのないような険しい顔をして睨んでいる。しかし話しているうちに、それは懇願へと変わっていった。
「うるさい、うるさい。……分かっているよ。俺が言っているのは戯れなのかもしれない。だが、……戯れができるのも二十歳になるまでだ。今だけでいい、俺を王子だと知らない彼女と話がしたいんだよ……」
「ギル……」
「ただの“ギル”でいたいんだ。あと少しだけだ」
それは普段城でギルバートが見せることのない必死の声で、常々彼の苦悩を知るセオドアはそれ以上強くは言えなかった。
「……わかりました。二十歳の間までの遊びだと約束してくださいますね」
「わかった」
「では失礼します」
セオドアとギルバートの間にぎこちない空気が流れたまま、セオドアは彼の部屋から退出した。