王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~



エマが出ていったのを確認すると、おもむろにギルバートはヴァレリアに向きなおった。


「ヴァレリア嬢、どうして君がここに」

「ギルバート様こそ。それにその恰好……。騎士団になど入団していたのですか」

「昔な。今は変装用だ。エマは俺の正体を知らないんだ。とりあえず、黙っていてくれたことは感謝する」

「まあ、でもどうしてそんなことを……」


考えて、ヴァレリアは腑に落ちる。妖精だ天使だともてはやされる自分を見ても何の感慨も抱かない王子が、わざわざ変装してまで薬屋に通う理由なんてひとつしかない。


「王太子様。まさかエマさんを」

「しっ。ばらすときは自分で言うから、今は話を合わせてくれ。俺はギルという名の騎士団員で薬に興味があってここに通っているってことになってる」

「分かりました」

「で、君はどうしてここに? お父上は知っているのかい? ここはキンバリー伯爵が支援しているらしいから、君のお父上が行っていいと許可を出すとは思えないんだけど」

「父には内緒です。エマさんに悩みを聞いてもらっていたんですわ」

「悩み?」

「ええ、でも、王太子様に言うのは……」

「お待たせしました」


ヴァレリアがもごもごと言い淀んでいるうちに、エマが戻ってくる。手早く紅茶を淹れ、ふたりの前に差し出すと、ヴァレリアの葛藤などそっちのけで話し出した。


「ギル、ヴァレリア様は恋に苦しんでいるのよ。好きな方がおられるんだけど、政略結婚を迫られているんですって。私には貴族のことが分からないし。相談に乗って差し上げてくれないかしら」


エマに真摯な瞳で見上げられると、ギルバートは弱い。胸のときめきを抑えようとわざと咳払いをして、可愛らしい丸い瞳を視線から外す。

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