王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


「そろそろ戻ります」とソファから立ち上がったヴァレリアをエスコートするように、ギルも「ではお部屋まで送りましょう」と立ち上がり、そのまま出て行ってしまった。

折角ギルが来たというのに、今日はヴァレリアの話に終始していたので、ほとんど話せなかった。
ため息をつきつつお茶道具を片付けていると、今度はけたたましい足音とともにシャーリーンが入ってくる。


「惚れ薬はできた?」

「シャーリーン様? 早くないですか、取りに来るの」


一週間後に取りに来ると言ったくせに、気が早すぎる。


「というか、本当に作れませんってば、そんな薬は」


嘘だ。本当はできている。エマはちらりと棚の上の薬瓶に目をやる。
だけど、昨日勢いで作ってしまった薬をシャーリーンに渡す気はなかった。
やはり惚れ薬で人の心を操ろうというのは間違っている。


「早くしてよ。あの女、いつの間にか抜け駆けして王太子様と……! 私がお誘いしてもすげなく逃げるのに、王太子様も楽しそうに話していたわ。このままじゃまずいの。ヴァレリア様に取られてしまうわ」

「大丈夫ですよ」

「適当なこと言わないでよ。さっき、ふたりで話しながら歩いているのを見たんだから。ヴァレリア様ったら、ついこの間まで、話すのも恐れ多いみたいな顔して、舞踏会でも壁の花だったくせに! 油断してたらダメね。ああいうおとなしそうな顔した女が、うまいとこ持っていったりするのよ」

「そりゃお話くらいしますよ。シャーリーン様だってするでしょう?」

「でも私には笑いかけてくれないわ……」


シャーリーンが寂しそうに目を伏せたので、エマはおや、と思う。
この令嬢、気が強いだけかと思ったら可愛らしいところもあるらしい。
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