王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「とにかく、王太子様はヴァレリア様を選んだりしません。大丈夫です」
「根拠もないくせに適当なこと言わないでよ!」
根拠はある。エマはギルを信頼していた。彼が言うのだから、ヴァレリアの件はきっと大丈夫だと信じている。けれどそれをこの気の強い令嬢には教えないほうがいいだろう。
「ヴァレリア様を気にするよりも、シャーリーン様はご自分の魅力を存分に生かして、王太子様と距離を縮めればいいんじゃありませんか」
「そんなの出来たらとっくにやってるわよ! 話しかけても逃げられるんだもの。薬に頼るしかないじゃない」
「いや待って。薬はダメです」
「出来ないんなら、お父様に言ってあなたなんてどこかに追放してもらうから。自分の身が可愛かったらちゃんと作りなさいよ。惚れ薬!」
言い捨てて、シャーリーンは出ていく。
たまに可愛いところがあるかと思えば、やはり気が強く言動がムカつく。
エマは惚れ薬の小瓶を掴み、窓際によって陽に透かして見てため息をついた。
「……追放って……ほとんど脅しじゃない。どうしよう」
頭を抱えていると、再びノックの音だ。今日は忙しい。気を取り直して扉を開けると、今度は息を切らせたギルが立っていた。
「ギル……! どうしたの? 忘れ物?」
「いや、忘れ物。というか、その。……入ってもいいか?」
「もちろん。どうぞ」
ギルはきょろきょろと辺りを見回しながら素早く中に入ってくる。