王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「今ちょっと人に追われていて……君にも伝えたいことがあるし」
「私に? 何?」
ギルの額にはうっすら汗がにじんでいる。綺麗な金髪は碧眼を隠すようにサイドに流されていた。
「……会いたかったよ」
肩を掴まれ、エマは息が止まりそうになる。
ギルは伏目がちに色っぽくエマを見つめた。心臓が口から飛び出しそうだ。エマは無意識に自らの胸を押さえた。
「もっと君とゆっくり話したかったんだ。もう……今日は時間がないんだが、もう一度君の顔が見たくて」
「ギル……?」
思わせぶりな発言に、エマのときめきは止まらない。
今日のギルはいつものように会話を楽しむといった態度ではなかった。腕を伸ばし、エマのポニーテールの髪を優しく触る。スキンシップのとり方が明らかにいつも違う。
「エマ。……俺も、貴族だから政略結婚しなきゃいけないなんてことはないと思う。たしかに家は大事だが、俺たちだって人間だ。恋しい人がいるのに他の人を選べるわけがないんだ。そう思うだろ」
「ええ! 思うわ」
ヴァレリアのことを言っているのだと思って、エマも拳を握る。
「だから、俺は……」
髪を触っていた手が、頬に移る。上を向かされ、ギルの碧眼がよく見えた。そこに、自分の姿が映っているのも。
心臓が早鐘を打って、エマにはギル以外が見えなくなった。
「俺は君を……」