王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「……様ー! お時間ですよ。どこに行かれたんですか」
そのとき、廊下から聞こえてきた声に、ギルは飛び上がるように驚いて、急に慌てだす。
「あの声はリアン! ああくそっ。……すまない、エマ。また来る」
「え、あ、ギル?」
顔を真っ赤にしたまま硬直したエマはその場に残される。
素早く外に出たギルの「リアン、こんなところにまで探しに来るな!」という叫び声は、だんだん遠ざかっていった。
エマは頬を押さえ、体の力が抜けてずるずるとへたり込む。
「今の……なに?」
距離が近かった。今まではふたりきりでいても、ギルはエマを警戒させるような距離をとったことはなかった。
なのに今は、ともすれば抱きしめられそうなほど接近していた。
「ドキドキする。……やだ。どうすればいいの」
思い出すだけで頭が沸騰しそうだ。エマはそのまましばらく、床の上で先ほどの出来事を反芻していた。