王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
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カツ、カツ、という固い音が脳内に響いてきたのはそれからしばらくしてからのことだ。
みればバームが小窓を外からつついている。
「おい、エマ、開けてよ」
「あ、ごめん」
「なにボーっとしてるんだよ。僕、もうくちばしが痛いよ」
我に返って立ち上がり、急いで小窓を開ける。
「どうしたの、バーム」
「よく来る騎士団のにーちゃん。怪我したぜ?」
「え?」
小窓からではよく見えないので、寝室のほうに向かい大きな窓を開け、身を乗り出すようにして騎士団のほうを見ると、大柄なセオドアが担架に乗せられるところだった。
「すみません、すみませんっ」と半泣きの騎士が傍についている。
「大変!」
どうやら槍の訓練をしていて、相手の槍が腕をかすめたらしい。
部屋を出ると、向かいの部屋の医師が治療室の扉を開き、待ち構えていた。
「あの、私で良ければ手伝いますが」
医療行為はできなくとも、補助くらいはできる。そう思って申し出たが、インテリ風の医師は、エマをきつくにらむと「近づくな小娘。セオドア殿は男爵家の跡取りだ。私が診る」と追い払われてしまった。
担架に乗せられたセオドアとともに、数人の騎士も一緒に治療室へ入っていく。
残ったのはふたりの騎士で、顔を見合わせながら戻っていこうとしていた。